γ(ガンマ)計算について考える

こんにちは!
 
更新が不定期にならないよう自戒しておきながら、早速掟を破っていく始末。ご容赦ください。。
 
近頃、初期研修医のバイブルともいえる良書、「内科レジデントの鉄則」を読んで勉強しているのですが、突然現れた謎の概念「γ(ガンマ)」計算に非常に苦戦してしまいました。かつてはゴリゴリの理系だっただけに、理解できないことへのショックが大きかったのですが、何とか自分なりに腑に落ちる解釈を会得しましたので、ここに記録したいと思います。

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内科レジデントの鉄則(出版:医学書院)
  1. γ(ガンマ)とは?
 
γ(ガンマ)の定義は、「体重1kgあたり1分間でどのくらい薬剤を投与するのかという単位」のことだそうです。正確に記述すると、
 
γ=μg/kg/min
 
となります。
 
新たな概念・知識を習得する際に大事なのは、抽象化、即ち「イメージ」へと昇華させることだと思いますので、ここで一度、γのイメージをお伝えします。(私独自の脳内イメージで恐縮ですが、、)
 
 
皆さん、1ドルが360円だった時代をご存知でしょうか。この時代の通貨制度を「固定相場制」といい、現在の為替レートに従って通貨の価値が変動する「変動相場制」へと切り替わった1973年まで続いていた制度です。私も詳しくは存じないのですが、どうやら世界が「金(きん)」を貨幣として用いていた時代背景の延長で、最も金の産出量の多かったアメリカの通貨(=ドル)を、金の引き換え券として扱うこととし、各国の通貨がドル(金とほぼ同義)基準に切り替わったという経緯があるそうです。世界的に金=ドルの価値は平等ですから、各国の通貨の価値を規定する際に、「我が国の通貨は、ドルの◯倍の価値がありますよ!」といって、その通貨の信用を担保していたわけです。
 
まとめると、この時代の通貨は「ドル」基準で価値が規定されており、外国通貨に両替する際は、一度「ドル」に替えてから、目的の通貨にする、というような手順でした。(実際の手続きはもっと簡略化されていたかもしれませんが。)
 
あくまでイメージですが、γ(ガンマ)は、固定相場制の「ドル」に似ている気がします。即ち、どんな状況でもとりあえずは通用する(信頼できる)単位、という解釈です。具体的には、同じ病態のAさんとBさんに対し、日本で「Aさんに、いちガンマ入れて!」と言った場合と、アメリカで「Bさんに、ワンガンマ、プリーズ!」と言った場合で、結果として投与される"べき"薬剤量は同じということです。
 
なぜ、「投与される量」ではなく、「投与される"べき"」と記述したかは、次章でお話しします。
 
 
 
  1. γ(ガンマ)の正しい解釈
 
 
γ(ガンマ)の定義に立ち返りましょう。
γ(ガンマ)とは、
 
γ=μg/kg/min
 
のことでした。
 
この単位の特徴として、①薬剤の量が「グラム」表記であることと、②投与される人の「体重 1kgあたり」の薬剤量であること、の2つが挙げられます。
 
第一章の最後で、「投与される"べき"」と表記した理由は、「結果として同じ薬効をもたらす」という意味を含ませたかったためです。
 
 
具体例を出しましょう。以下の2つのケースを考えます。
 
ケース①:体重50kgのAさんが、血糖値200mg/dLの高血糖で来院し、インスリンを投与した。
 
ケース②:体重100kgのBさんが、血糖値200mg/dLの高血糖で来院し、インスリンを投与した。
 
さて、この2つのケースで、投与したインスリン製剤の投与量は同じでしょうか。
 
 
答えはノーです。
なぜなら、AさんとBさんの体重が全然違います。そして、もうひとつは、投与したインスリン製剤の「濃度」が、2つのケースで異なるかもしれません。濃いものだと少量で良いですが、薄い製剤だとそこそこ入れないといけませんよね。
 
ですので、(以下、数値は適当ですが)、ケース①では40単位/mLを0.5mL注射し、ケース②では80単位/mLを0.7mL注射した、というふうに、同じ病態(検査値)でも、全く異なる薬剤投与がなされうるのです。
 
しかし、γ(ガンマ)という単位を用いると違います。ケース①で1γなら、ケース②でも1γということになります。即ち、γ(ガンマ)を使えば、症例ごとの「体格差」や薬物製剤の「濃度」を考慮せずに、投与すべき量を表記できてしまうのです。
 
(追記)
※注)この例で扱ったインスリンは「持続投与」の典型的な薬剤ではないため、γ表記されることはない(or 少ない?)ようです。(持続投与の典型例は、循環作動薬、鎮静薬、筋弛緩薬など。)
今回は、「同じ病態」というポイントをイメージするために、あえて血糖値を提示し、インスリン製剤を例に出しました。ご了承ください。
 
 
これは例えると、
1つのリンゴがあって、それを日本では「360円」と表記し、アルゼンチンでは「280ペソ」と表記されていて、同価値かどうか分からないので、ドルに変換した結果、どちらも「1ドル」だったので、同価値であることを証明できた、みたいな感じです。
先述の通り、γ(ガンマ)はまるで、固定相場制時代の「ドル」のような立ち位置と似ています。
 
ここまでくると、γ(ガンマ)の習得までもう一踏ん張りです。次章では、臨床現場でのγ(ガンマ)の取り扱いについて述べます。
 
 
  1. γ(ガンマ)の取り扱いについて
 
 
さて、γ(ガンマ)のイメージがついてきたところで、γ(ガンマ)を臨床現場でも使うために必要な思考手順を整理していきましょう。
 
「γ(ガンマ)は良くわかった。けれど、実際に薬剤をどれだけ点滴に混ぜたらいいか分からないよー。」
 
となることを防ぐために、単位の「換算」を行います。決して難しくない手順なので、良く理解しておきましょう(突然エラそうにすみません...)
 
それではいきます。
まず、γ(ガンマ)の定義を記します。
 
 
γ=μg/kg/min
 
 
γ=1γのことですから、(ex: 2γ=2×1γ, 3kg=3×1kg)
 
 
1γ=1μg/kg/min
 
 
続いて、臨床でよく用いる薬剤の単位「mL/h」を思い出します。「γ」を「mL/h」にしたいので、その気持ちを強く抱きながら、単位換算していくと、
 
 
1γ=1 μg/kg/min
 
=0.001 mg/kg/min
 
=0.001×60 mg/kg/h
 
=0.001×60×その人の体重 mg/h
 
 
ここまできました。最後に、その薬剤の濃度を考慮します濃度をα mg/mLとすると、
 
 
上式=0.001×60×その人の体重÷α mL/h
 
 
ついに来ました「mL/h」!
まとめましょう。
 
 
1γ=0.06×その人の体重÷α(濃度) mL/h
 
 
よって、1γ(=単位γ)は、「その人の体重に0.06をかけ、薬剤の濃度で割った値(単位はmL/h)」と同じになることが分かりました!
 
では最後に、具体例で考えていきましょう。
 
 
例) 敗血症疑いの患者に、ノルアドレナリン0.05γを投与するよう指示があった。投与する薬剤量[mL/h]を求めよ。(患者の体重は60kg。)
 
答)0.05γ=0.05×1γ=0.05×0.06×その人の体重÷α mL/h=0.05×0.06×60÷α mL/h=0.18÷α mL/h
 
 
答えを求めようとしたら、答えにα(濃度)という変数が入ってしまいましたね。これでは、選ぶべき薬剤が定まりません。濃度は適当で良いのでしょうか...
 
しかし、実際の臨床現場では、0.05γならα=0.05 mg/mL、3γならα=3mg/mLで開始することが多いそうです。理由は定かではありませんが、この法則により、γ計算がとても楽になります。なぜなら、γの係数(今回の例ですと0.05)が、分母のαによって見事に約分され、0.05γ=0.06×60 mL/hとなるためです。
 
 
これで、ようやく結論に辿り着けました。要約すると、
 
「A γ投与とは、濃度A mg/mLの薬剤を0.06×その人の体重 mL/hで投与開始すること。」
 
となります。
 
いやー、長かったですね。さすがに打ち疲れました、、、
 
新しい概念には、何度も触れることで慣れていくほかありません。分からなくなったらまたこれを読み返して、確実に自分のものにしていきたいものです。
 
訂正があれば、その都度更新します。
 
長い時間お付き合いいただき、ありがとうございました!